健康の社会決定要因と貧困問題〜健康は自己責任ではない!〜

健康の社会決定要因ってなに??

健康の社会決定要因(Social Determinants of Health=SDH)という言葉を聞いたことのある人は、あまり多くないかもしれません。これは「健康」を考えた際にとても大切な概念になりますので、最初に説明していきたいと思います。

医学生の教育カリキュラムでも、近年になり「SDHを概説できる」という学習目標が設定されたほど、日本では比較的新しい概念であるようにも思えますが、実は結構古くからこの分野の研究報告も多いのです。

このSDHとはどういうことかというと、健康に影響する個々の肉体レベルの要素のことではなく、健康に影響する社会因子のことを指します

肉体レベルの要素:遺伝子、細胞、筋肉、関節など

社会因子:社会経済状況、国家の状況、地域環境、学歴、所得など

以前までは健康には生物学的な問題ばかりが着目されていました。
2型糖尿病になるのはインスリンの問題であり食事の不摂生が原因の一つ。なので自己責任であるというような意見も以前から散見されています。「生活習慣病」という名称がそもそもの誤解を強化するワードなのです。

しかしこのSDHの概念が広まれば、その誤解は少なくなっていくのではないかとも思うっています。それほどに、健康には「社会的因子」が根深く関わっているということがわかってきているのです。

例えば上の例でみていくと、

2型糖尿病というのは、確かに高血糖状態が続くことで起こる疾患でもあり、食事の不摂生の影響は大きいのが事実。

いつもお菓子ばかり食べている。
野菜を食べずに炭水化物ばかり食べている。

そんな生活習慣の人が糖尿病になったら、皆さんは「自己責任」と思うでしょうか?

正直に言いますが、以前の私はそう思っていました。自分は健康に気をつけて野菜を食べたり、間食を減らしている。気をつければ防げるものだし「生活習慣病にかかるのは自己責任だろう」と思っていました。甘いものを常に口に入れ続けているような人が糖尿病なり、何かしら病気になっても「自分の行動が招いた結果だ」と考えていたのです。

だけど、最近はそう思いません。

今の例であげたように、
・いつもお菓子ばかり食べている
・野菜を食べずに炭水化物ばかり食べている

そういった人の、こうした行動は何によってもたらされているのか?という社会背景までを想像するようになったからです。

次により詳しく社会要因を見ていきます。

 

貧困と寿命の関係

SDHでは、特に“経済状況”や”社会的立場”と健康との関係が世界各国から報告されています。

例えばアメリカでは1992年に50代・60代だった富裕層は、2014年時点でもまだ4分の3が生存していた。しかし貧困層の生存者は半分をわずかに上回る程度だったというような話をネットニュースでも見かけたりします。

イギリスではホワイトホール研究という有名な報告があります。公務員を対象に、職種の階級の違い(管理職、専門職、事務職、その他)が健康に及ぼす影響を長期に渡って調べた研究報告。
この報告によれば、職種の地位と死亡率に関して有意な相関を認めたということが分かったのです。現役時代には3.12倍も、そして引退後であっても1.86倍も、職階の低い群方が職階の高い群と比べて死亡率が高かったといいます。(Marmot.1984)

そしてこれらは海外だけの話ではなく、日本でも様々な報告があるのです。

生活困窮世帯の子どもは虫歯や肥満が多かったり、また所得の低い人ほど喫煙率も高く糖尿病や高血圧に罹患しているということ。野菜摂取量が少なく、炭水化物を多く摂っているということ。検診の未受診やワクチンの未接種などが多いことなどが分かっているとのこと。

東京23区で見ても、世田谷、目黒、杉並、港区などのいわゆる西部の「山手地区」と葛飾、荒川、江戸川、足立などの東部の地域では、西部の地域の方が世帯年収は高く寿命も長いことが分かっており、西高東低と言われています。

これは一体どういうことなのでしょうか?

なぜ低所得者や貧困だと健康が損なわれるのでしょうか?

単純に考えて、上記の報告にもあるように
・検診の未受診
・ワクチンの未接種
これらは直接的に病気の発見・治療開始の遅れや、予防に直接的に関与します。貧困によってこういった部分にかけられるお金が少ないということです。

また
・炭水化物が多く野菜摂取が少ない
・生活習慣病が多い
これらは少ない出費でエネルギー源となる低価格高カロリーの食事を優先した結果、ファストフードなどが増えて肉体的な健康を脅かすことに繋がるのではないでしょうか。

よく勘違いされているけれど、肥満は贅沢病ではありません
貧困層にこそ肥満は多い。ファストフードや加工食品などの低価格低栄養高カロリーの食事を続けたことによって肥満になることが多いのです。

このように、生活習慣病などは表面的には「自己責任」のように思われてしまうかもしれませんが、その社会的背景を考えると「社会格差」が生んだ結果とも言えるかもしれません。

寿命を全うしない死亡の原因の割合は
・生物学的要因は30%
・生活環境が40%
・医療制度や社会状況が残りの30%
というような報告もあります。(Schroder.2007)
それほどまでに環境要因というのは大きいのです。

生活習慣の形成は家庭環境や成育歴にも左右されます。食事で言えば、嗜好は幼少期の食体験に大きく依存します。幼少期から低価格低栄養高カロリーのファストフードや加工食品ばかりを食べていたら、その嗜好は大人になっても続くことが多いのです。

そして何よりも「物事に対する向き合い方」というのは、幼少期からの環境の影響が大きいといわれています。幼少期の体験は脳に構造的変化をもたらすほど重大であり、この問題がその後の人生の様々な面において多岐に渡って影響があると僕は思うのです。

子どもの貧困問題
それは単純に不摂生な食事やワクチン未接種などの問題に止まりません。

前回の記事に書いた文章

なにか目の前に困難や不幸が舞い起こった際に「これも自分で選んだ道であり、挑戦だ」と向き合うか「なぜこんなことになるんだ。社会が悪いからこんな目に遭わなければならないのだ」と不満を口にするか?
そんな違いが「健康かそうでないか」という一つの基準にもなるのではないかと考える。
であるならば、その違いは何によって生じるのか?

こういった物事の捉え方にも多大な影響を及ぼしかねないのが、子どもの貧困問題です。

では具体的に子どもの貧困はどういった問題を引き起こしてしまうのでしょう?どんな構造で幼少期の経験が大人になってからの健康に影響するのでしょう?
長くなりましたので、このあたりの話はまた改めて書きたいと思います。

生まれた時から子どもの健康は決まってしまうのか?〜子どもの貧困と健康格差について考える〜

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