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子どもの貧困と健康格差について考える〜生まれた時から子どもの健康は決まってしまうのか?〜

前回の記事健康の社会決定要因について紹介し、生まれ育った環境によって疾病リスクや寿命は変わってしまうということを紹介しました。

今回はより詳しくその中身を紹介しようと思います。

「幼少期の経験や習慣は、その後の人生に大きく影響する」
これは医療系の論文のみならず、教育や経済、そして犯罪などを含めて様々な分野から報告があります。

医者の子は医者になる人も少なくありません。反対に犯罪者の幼少期の成育環境は複雑な背景を抱えていたりするものなのです。
特に貧困問題が寿命や疾病と関係があるということは、前回の記事でも少し紹介した通り。
実は健康問題のみならず、犯罪などにも深く関わるのですね。

このように、自分ではどうしようもないような生まれ持った「環境」の問題が、人々の心身を蝕んでいるという事実を皆さまには知って頂ければと思います。

今回の記事ではこういった貧困問題を含めて、幼少期の経験がその後の人生にどんな影響を及ぼすのかということを紹介していきます。

 

出生時の状態と将来の疾患リスク

人生とは生まれてから死ぬまでの切れ目のない一連の流れです。

通常はその流れの中で「病気を患った」とか「怪我をした」とか、はたまた「会社が倒産した」というようなイベントが起こります。
しかし、実はヒトの人生に影響を与えるイベントは出生前から起こっているという報告があります。

どういうことかというと「生まれてくる前の状況が、その人の人生にすでに大きな影響を与えている」ということが疫学的に分かってきているのです。

まだお母さんのお腹のにいる胎児期、まだまだ小さな幼少期、そしてその後の学童期や青年期など、人生をどのような環境で過ごしてきたのか?それらがどのように疾病の発症に関わっているのかを追求する学問:ライフコースアプローチというものがあります(藤原.2007)

人生の一連の流れの中で、どの時期にどのようなイベントが起こったり、どういった環境に曝されることが疾病の発症に影響するのか?ということを統計学的に研究する学問です。

このライフコース・アプローチの研究報告によると、出生時の低体重は肥満・高血圧・冠動脈心疾患・脳出血・2 型糖尿病のリスクとなっていることが報告されています。(Baker.1990 de Boo.2006)

なぜ低出生体重児は将来肥満になってしまうのか?
そのメカニズムとは「子宮内で少ない栄養素で生き延びられるようにプログラミングされ、出生後もその適応した状態が維持される。しかし生まれた後に急激に豊富な栄養摂取がされる環境であった場合、低栄養状態に適応した身体に過剰な栄養が供給され、肥満や糖尿病を呈する」と考えられているとのこと。

「太りやすい体質」というのは、胎児の時の母体の栄養状態などによっても決定される側面があるということです(100%ではないですよ)

さらに低出生体重児はホルモンバランスの変化によって、女児では初経年齢が早まる・思春期うつ病リスクが高まる・閉経が早まる・生活習慣病リスクの早期化など、その後長期に渡って影響が続くことが示唆されています。(早期介入によって軽減させることも可能とのこと)福岡ら.2020)

平成25年版子ども・若者白書によると、出生時の平均体重はこの35年間で約200g減少しているそうです。原因は定かではありませんが、一つの因子として若い女性の過度なダイエット志向なども影響があるのではないかと言われています。
妊娠中の母親の過度な食事制限や喫煙が低出生体重児の出産を通じて次世代に長期的な負の影響を及ぼすことも危惧されているのです。

これから妊娠・出産を控えてる女性の方がいたら、ぜひ食事は過度に制限せずに主治医の先生としっかり相談しながら栄養を摂取してもらいたいと願います。

ライフコースアプローチではここで説明したように、胎児期の栄養状態が生活習慣病の発症に影響すると説いています。実は胎児期から将来への影響が蓄積されているという事実に驚く人も少なくないでしょう。

ライフコースと心理的側面

これまで説明したものだけでなく、胎児期や幼少期からの影響というのは心理的側面にも非常に大きな影響を及ぼすことも分かっています。

例えば親から出生直後の子へのケア(撫でる、抱っこするなど)がどれほど子どもの機能(遺伝子発現)に影響するのかを調べるために、ラットを使った実験があリます。その実験によると、遺伝的要素とは関係なく親から舐めてもらったり毛づくろいをしてもらったラットの方が、ストレス反応を受け止める受容体の発現が有意に高かったとの報告があります。藤原.2008)

これをそのまま人間に置き換えられるわけではありませんが、人間に置き換えれば親が子へのケアを頻繁にするほど遺伝子が修飾され、ストレス反応をより抑える能力をもった子どもに育つという可能性も考えられる(倫理的にヒトに対して研究できないので、あくまでもラットの研究からの示唆となります)

その他にも

・出生時体重・出生時身長と自殺との関係
・母体のインフルエンザ感染と統合失調症との関係
・胎児期および幼少期の化学物質暴露と自閉症との関係
(藤原.2017)

など、ライフコースアプローチでは胎児期や幼少期とメンタルヘルスとの関係を報告したものも多数あります。

 

また脳画像を用いた研究からは、幼少期の虐待に関する報告もあります。

・暴言虐待を受けた子は、脳の聴覚野が肥大している
・DVを目撃した子は、脳の視覚野が萎縮している
・厳格な体罰を受けてきた子は、前頭前野が萎縮している
・愛着障害のある子は、線条体の機能低下が見られる
友田.2016

このように、幼少期の虐待などの逆境体験は、子どもの脳を構造的に変化させてしまうほどのインパクトがあるのです。

こういった脳の構造的変化があることによって、社会適応困難となり上手く仕事に就けなかったり、人間関係を構築できないなどの弊害が起こってくることがあります。犯罪者が幼少期に過酷な家庭環境にあるケースが多いのも、このような脳自体の変化が起こっているのが原因かもしれません。
また脳の変化が起こることで、うつ病などの精神疾患や慢性的な身体の痛みなどを引き起こすリスクも高くなります。

このように生まれ育った時の状態や環境によって、その人の人生は大きく左右されてしまうのです。

病気や疾患というのは決して自己責任なんかではない。社会が生んだ病気という側面もあると言えるのではないでしょうか?

 

またこういった事実を知ると、健康な人は自身の環境に感謝する気持ちも芽生えるかもしれませんね。そして「自分にできることは何かないだろうか?」と考えるきっかけになってくれたら嬉しく思います。

社会で子どもを育てる。

僕がこういった研究報告を紹介して何が言いたいかと言いますと、今も書いたばかりですが「あなたはリスクがありますよ」とかそういうことを言いたいわけではありません。
社会に蔓延する「自己責任論」に終止符を打ちたい。他者の状況を想像できるような社会になってほしいとの想いがあります。

ここで紹介した研究報告などはあくまでもリスクを示唆しただけのものであり因果関係ではありません。低出生体重児でも生活習慣病にならない人も沢山いるし、母体がインフルエンザに感染しても統合失調症にならない人も沢山いる。逆境体験を乗り越えて、素晴らしい功績を残してきた人も少なくありません。

統計が教えてくれるものはあくまでも傾向であり抽象的なもの。それを加味した上でよく事例を観察することで、因果関係や介入手段などがまた見えてくることがあるでしょう。

もし低出生体重時で生まれてきたのなら、お菓子やジュースの与え過ぎに注意する必要もあるかもしれません。個々の味覚の嗜好は3歳頃までに決まってくると言われています。それまでに甘いものを沢山与え過ぎてしまえば、その後の人生でも甘いものを好むことが多くなるかもしれません。
また自身が成人している人で出生時の体重が低かった人は「太りやすい体質かもしれない」ということを自身で念頭に置いた上で、ある程度自身で食事をコントロールする必要もあるかもしれません。

こういった自分自身をコントロールする力=非認知能力が備わっていれば、食事や運動をコントロールすることでリスクを減らしていくことができます。

またこのような報告もあります。

両親の学歴や年収が低い場合、子どもが自閉症スペクトラム障害疑いであるリスクが大卒者に比べて1.5倍高い。
しかしソーシャルキャピタルが高い場合、有意に子どもの自閉症スペクトラム障害疑いのリスクが下がったとのこと。(藤原.2014)

 

つまり、子どもを地域社会で育てていくことができれば、両親の学歴や年収とは関係なしに子どもの社会性やコミュニケーション能力を育てることができる可能性があるのではないでしょうか。

なので、僕はこう言った「自分の力だけではどうにもできない幼少期の経験」に立ち向かうべく、「非認知能力」を高められるような「ソーシャルキャピタル」が重要になると思うのです。

この「非認知能力」と「ソーシャルキャピタル」について改めて記事を書いていければと思います。

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