愛着ってなに??子どもの将来に影響する親子関係についてお伝えします
こんにちは。ささやんです。
僕は医療機関で働きながら患者さんと関わってきた中で、「愛着形成」の重要性に行き着きました。そして、これはおそらく医療の世界のみならず、学業や犯罪など多岐にわたる分野においてもその重要性にたどり着いているというのが現在の答えなのではないかと思います。
そこで本日は愛着について記事にまとめてみました。
子どもが養育者に対して形成していく愛着。その子の生涯に多大に影響する大切なことなので、ぜひこの機会に愛着について知ってもらえたらと思います。
・そもそも愛着って何??
・愛着ってどうやって形成されるの?
・愛着形成は将来にどんな影響があるの?
今回の記事ではそんな疑問にお答えしていきます。
参考にした書籍はこちら
愛着(アタッチメント)とは?
愛着(アタッチメント)という言葉は聞いたことや使ったことがあるかと思いますが、少しあやふやなイメージもあるのではないでしょうか?
この言葉の定義としては、特定の他者との間に築く情緒的結びつきと言われています。情緒的結びつきというのは、誰かを頼って安心したい気持ちや他者によってもたらされる不安の軽減のことなどを言います。
これは乳幼児期を過ぎたら消えるようなものではなく、その後の自己肯定感などに影響するように青年期や成人期以降も継続する重要な役割を果たすものと考えられています。
人間の赤ちゃんは未熟な状態で生まれてくるため、一人で生きていくことができません。自分で哺乳することもできないので、常に養育者が授乳しなければ育つことができないのです。そのため、赤ちゃんがもつ機能(原始反射と呼ばれるもの)は哺乳のための機能だと考えられてきていて、授乳を通した栄養補給こそが赤ちゃんが養育者に求める最重要項目だと考えられていました。
しかし、とある実験によってその考えが覆されることになります。その実験とはサルを用いたものなのですが、母猿と分離させられた子猿に「針金で作った哺乳瓶付きの代理母」と「毛布で作った代理母」を準備したところ、哺乳する時以外は基本的に毛布で作った代理母のそばで過ごす時間が大半であったとのことです。(Harlow 1979)
つまり子猿にとって哺乳が大切なのは間違いないのですが、それ以上に温もりを感じれる存在に対して愛着を感じているということが分かりました。
これは猿の実験なのですが、ヒトにおいても以下ような研究報告があります。
愛着研究で有名なボウルビィの研究で、猿にとって大切なのは「温もり」という身体的接触ですが、ヒトにおいては「赤ちゃんが出す様々なシグナル」こそが愛着形成に重要とのことです。
これは一体どういうことなのでしょうか?
愛着形成と親子関係
ヒトの愛着形成に大切なのは「赤ちゃんが出す様々なシグナル」を受け止める大人との関係性ということです。これは具体的にどういうことかというと、赤ちゃんの「泣く」「微笑む」などのシグナルに対して、養育者が「どうしたの?」と声をかけて抱き上げたり、また赤ちゃんの笑顔につられるように微笑み返すなどのやりとりのことです。こうしたやりとりを経て、赤ちゃんは養育者との絆を作っていくのです。
赤ちゃんは「自分のシグナルに答えてくれる存在か?」ということを見極めながら、愛着を形成していきます。そのため実親でなくとも、自分のお世話をしてくれる存在に対して愛着形成をすることができるのです。
こうして愛着が形成されると、その後は人見知りが始まります。これは信頼できる養育者の存在があるからこそ、それ以外の大人に対して警戒するという非常に健全な反応なのです。
この時期には愛着形成している親に対しての後追いが始まったり、養育者がいなくなると泣くなどの行動が見られます。
このように乳児期からすぐに形成が開始される愛着ですが、大きく3つのパターンに分けられると言われています。そのパターン分類は以下のような実験における反応から分けられるとのことです。
ストレンジシチュエーションテスト
1.乳児と養育者が2人で遊んでいる
2.そこに見知らぬ人が部屋に入ってくる
3.養育者が部屋から退室
4.見知らぬ人と乳児が2人にされる
5.養育者が入室、見知らぬ人は退室
6.養育者も退室、乳児は1人ぼっち
7.見知らぬ人が入室
8.養育者も入室
この実験で鍵となるのが(3)(6)の養育者が離れる時、そして(5)(8)の養育者が戻ってきた時の反応です。以下にそれぞれの反応によるパターンを紹介します
回避型
回避型の乳児は(3)(6)のような分離時に困惑する様子も見られず、また(5)(8)の戻ってきた時にも喜ぶ様子が見られないということです。
日常的に養育者が乳児に対して無反応であることなどが考えられると言われます。
安定型
安定型の乳児は(3)(6)のような分離時に戸惑うものの、(5)(8)の戻ってきた時にはすぐに落ち着きを取り戻すとのことです。
日常的に養育者が乳児に対して応答性が高いと考えられています。
アンビバレント型
アンビバレント型の乳児は(3)(6)のような分離時には取り乱し、(5)(8)の戻ってきた後もしばらく落ち着きを取り戻せずに養育者に対して怒りをぶつけるなどの行為が見られるそうです。養育者に対する甘えたい気持ちと怒りという相反する気持ちがぶつかりあうことで、このような反応が見られると考えられています。
日常的に養育者が乳児に対して応答性しているものの、その反応は養育者の気分によって変わるものであり乳児が困惑すると考えられています。
このように親子関係における愛着形成には幾つかのパターンがあり、日常的な愛着形成によって子どもの反応が決定される側面があると考えられているということです。
どれが良くてどれが悪いといったことではなく、子どもは普段の環境に適応して行動が決まっていくということ。すべての反応や行動には、その子なりの最大限の生きる知恵でもあるのですね。
であるならば日頃から赤ちゃんのシグナルに対して、しっかりと反応してあげたいというのが子を持つ親なら思うものです。しかし心の余裕がなくなるほど「頭ではそう思っていても、思うように向き合えない」というのが実際なのです。
愛着形成に大切なのは「親がきちんと子と向き合うこと」ではなくて、親の心の余裕を作ることなのです。そのためには母親を支援する社会資源を充実させることや、父親の育児参加、そして父親が育児参加できる余裕を作り出せる会社のあり方など、社会全体の問題になるのですね。
愛着形成が将来に及ぼす影響
愛着形成のパターンがいくつかあるということがわかりましたが、その違いがいったいどのように将来の差を生み出すのでしょうか?
まず直接的な影響として、青年期における精神面への影響があります。
ある研究では、安定型の子は対人関係をより容易に築きやすく、他者から見捨てられることや情緒的に接近することに対して不安を抱くことが少ないとのこと。
回避群では他者との距離が近くなることに大きな不安を感じ、他者を信頼したり依存したりすることに困惑する傾向がある。
そしてアンビバレント型では他者との密接な関係を強く望む一方で、他者は実際には自分に対して愛情を持たず自分と共にいることを望んでいないのではないかと不安になる傾向が強いとの報告があります。(澤村 2013)
その他に論文などを渉猟しても、アンビバレント型の子どもは不安や不登校になりやすく、また回避型の子どもにおいても時に不適応になりやすいとの報告などがあります。
愛着障害と呼ばれるような、幼少期のネグレクトや虐待などの経験のある子どもは、その後の自身の人生においても混沌とした人生を歩む可能性が高まることなどが指摘されています。(多くの悲しい事件の裏側には、こういった混沌とした幼少期の環境などがあるケースも多いんです)
少しネガティブな面から紹介してしまいましたが、ポジティブな面から紹介しましょうね。
乳幼児期の愛着形成は自己肯定感に影響することが多くの研究で報告されています。そのため愛着形成されることで、精神的に安定するほか「自分はやればできるはず」と、物事を計画的に努力して取り組むことができるようになるなど、その子のパーソナリティーに大きく影響します。
愛着形成されることで自己肯定感や自己効力感が育まれると、学業や収入も安定した結果となる可能性が高いことなども研究から報告されています(愛着形成の研究というよりも、非認知能力の論文ですが、愛着形成は非認知能力の土台となるものですから、愛着形成が将来に非常に大きく影響していることは間違いありません)
非認知能力に関しては⇨非認知能力は健康格差を解消するキーになるのかをご参照ください。
このように、愛着というのはその子どもの一生涯を決定してしまうほど大きなインパクトがあるものです。
出生後すぐにこの絆は形成され始めます。
子どもたちの将来の幸福を願うのならば、ママさんや養育者の方の心の余裕を作り出すということ。そんなことが私たち一人一人にとっても考えなければならない社会課題なのではないでしょうか。
この記事へのコメントはありません。